中部銀次郎の格好良さって何?
凛とした立ち振る舞いのゴルフ
対談・湯原信光vs中部 隆 司会・三田村昌鳳
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流行というのは疾走する。
時代を駆け抜ける。
だから流れ行くものなのだ。
名手にしても、時代を駆け抜けて去っていく人が多い。けれども偉大なアマチュアゴルファーと呼ばれた中部銀次郎は、どの時代でも語り継がれていく普遍の伝説を遺している。
それは中部銀次郎のゴルフのダンディズム。
格好のいいゴルフが、いつの時代でも世のアマチュアゴルファーに憧れを抱かせてくれるからだ。
「実にカッコいいゴルフをするんですよね」と中部を知っている人たちは語る。
ときおり中部さんが言ったことがある。
「下品も品のうち」といってニヤリと笑った顔が浮かんでくる。
けれどもそれは品性のあるゴルフを貫き通した人が言える言葉だったのかもしれない。その立ち振る舞いから、プレーぶり、ショットひとつひとつの組み立てまで、中部銀次郎は、カッコよかった。
そのDNAを受け継いだ息子・中部隆さんを見ていると、ふと父親・中部銀次郎を重ね合わせてしまう雰囲気を持っている。彼もまた中部銀次郎から受け継いだカッコよさを求めているのだと思えてならない。
中部銀次郎に影響を受け、兄と慕うほどの湯原信光プロと息子・隆さんに中部銀次郎のカッコいいゴルフについて語ってもらった。そこに浮き彫りにされたのは、ゴルフを愛する人間像だったのかもしれない。


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三田村 もうすぐ中部銀次郎さんの三回忌を12月14日に迎えるわけですが、いまだにゴルファーの間では、中部さんの伝説が語り継がれます。僕たちは、銀さんと呼んでいたんですが、その中部さんの魅力って、どこにあったんだと思いますか?

湯原 うーん。伝説というのは、どうしても大げさになってしまいがちですが、僕が中部さんについて、いつも話すことは「自分のできることをちゃんとやれ」ということなんです。これは当たり前のようで、実は、大変難しいことなんですね。
中部 僕が学生時代でしたが親父とゴルフをしたときなんです。
ちょうどパー5にきて僕が2オンを狙ったわけですよ。
たまたまうまくいったんですが、そこで親父は「もう一度、打ってみな」というので、打ち直したんです。
すると「もう一度」というので3回打ったわけです。
2発目、3発目はグリーンを外したわけです。
すると「それだけ確率の低いショットなのになんで狙うのか」っていうわけです。
で、僕はパー5になると刻むゴルフを続けていたんです。
ところが、あるときプレーしたときに、やはりパー5の場面で僕が刻むと
「お前、バカか」って(笑い)いうんですね。
僕としては、パー5は刻むという風に教えられた気がしていましたから
「だって、親父がそう言った……」っていう気持ちだったんです。
すると「今日のお前のショットの調子、ゲームの流れを考えてみろ。それに前のパー3で、同じような距離で、同じクラブを使って成功しているじゃないか。つまり練習もできている。だったら2オンを狙う場面だろ」というんです。
湯原 そこなんですよ。自分ができることをするという難しさが、そこにあるのだと思う。
中部 人として当たり前のことができる、が基本でしたからね。
自分の身の丈でできることをするという考えでしたね。
ですからそれが平均の法則ということになるのだと思う。
湯原 中部さんだって、もちろんミスをするわけですよ。
でもその許容量というのが凄いなと思った。
そのミスに対して、自分ができることはなにか、という選択が瞬時にできるわけです。ゴルフというのはミスのゲームですから、そのミスに対してどうするかという積み重ねなわけです。
それを何事もなかったように、組み変えていける。
それを平然とやってしまう。
普通なら、顔とか表情、態度にでるわけです。
アッと声を出したりとか、困ったとか。体温も変わるだろうし……。
でも中部さんは平然とやる。それをどうするのかというのが、まるでパターン的にあったかのごとくやってしまう。その瞬時の判断力と決断が凄い。本能的にあったのかもしれないけれど……。
三田村 ショックの吸収という言葉を僕は聞きました。
目から入ってくる情報、耳から入ってくる情報……つまり外的な情報や出来事に対して、自分がそのショックをどう吸収するかが大切だと。その吸収力、許容量があればゴルフは上達すると。ことさら慌てふためかないで、自分ができることをすることだという準備が必要だと言っていました。
中部 それはあると思います。車の運転にしても、周囲の車のスピードや配列にたいして、できるだけ事故が起こりそうな場面から回避するという感じはしましたね。それに、いちばん感じたのは、病気になって、入退院を繰り返したあと自分は家に帰りたいんですよ。
それで体についた、いろいろな管とかを外してくれって病院でいうんです。
何故だろうと思っていたら、あとで気がついたことなんですが、家に帰れば、いろいろな管は取り外されてしまうわけです。
病院ほどの設備はないわけですし。
ですから、病院でそれらを外してどうなるか知りたかったんですね。それを知ることによって、家に帰っても対処できるという考えだった。
湯原 中部さんらしい。僕がいちばん目に焼きついたのは姿勢ですね。
カッコいいって。もちろん普段の姿勢、背筋をきちんと伸ばしているということもそうですが、何かに立ち向かう姿勢もすべてに無駄がないという言葉が正しいかどうかわからないけれど、ものすごく理にかなっているなというのを感じました。
例えば、正しい位置、姿勢を常に見につけておけば、アドレスでも迷わないし、きちっと立てるでしょう。それに自分の体を真っ直ぐ保つ筋肉も自然についてくる。背中が丸くなるというのは筋肉の衰えでもあるわけですから、いつも、常に心がけることによって正しい姿勢でスイングもできるわけでしょう。
それだからこそ凛としている。
だからアドレスでも凛として構えられるのだと思う。
そういうことが、普通、当たり前になっているところがカッコいいのだと思う。
中部 たまたま2日間、僕の会社の上司の方と親父と僕とでプレーしたことがあるんです。2ラウンドだったんですが、上司の方が「隆くんよりも、全部1打ずつスコアがいい」と驚いたんですね。「相手よりも1打よければいいゲームなんだから」となんでもないように言ったんです。そういうところが、親父らしいと思いました。カッコよすぎますよね(笑い)。
 ゲームの流れを振り変えると、僕か親父が1打リードしている感じなんです。決して2打以上、親父がリードしたということがなかった。
それは「若者は、2打以上突き放すと何をしてくるのか解らない。もし居直ってそれがうまく転がって調子に乗ったら、その勢いを止めるのは難しい。いまの私には、それを止めることはできない」と言っていました。
ほんとにハーフ1打ずつスコアがいいんですよね、親父のほうが……。
湯原 僕は、中部さんが練習をする姿を見ていて、驚いた場面があるんです。ちょうど雨が降っていて、たまたまそこは屋根付きとその上に屋根無しの練習場があって、みんなは屋根付きで打球練習していたんです。
で、ふと見ると中部さんだけが屋根なしでモスグリーンのセーターのままで、真剣に打っていたんですね。
それは雨のプレーですから、雨をしのぐ練習よりも実戦を考えたら意味あることだったわけです。この姿は、いまも鮮明に覚えているし、自分もそういう姿勢でありたいと思っています。
中部さんの練習は、練習の練習ではなく、実戦の準備というのがしっかりしていた。ところが、コースに入ると、凄く穏やかなんです。
三田村 要するに、エンジンもタイヤもしっかり温めて、どんな状況でも車は機能するというレースカーの感じでなんですね(笑い)。
湯原 よくテンションが上がる、下がるというけれど、そういうのと違うと思う。言ってみれば、いまの言葉でいうゾーンなのかもしれない。脈拍は100ぐらいなんだけど、呼吸数は逆に少ない。深く息を吸っている。それが穏やかな状態で、しかも自分ができること、したいことができるという状態なんだと思いますよ。
三田村 こうして話していると、隆くんの雰囲気やゴルフに対する姿勢は、凄く父親に似ているような感じがする。やっぱりDNAなのかなと思った。
湯原 似ていますよ。たまたま隆君と何年ぶりかに逢う約束をして、その場所にいったとき、紺のスーツを着ている後姿が見えたんです。その立ち振る舞いが、あー、若いころの中部さんに似ているなぁって驚きましたよ。
中部 (笑い)……まあ、自分では意識したこともないし、ゴルファーとしての実績も大きな隔たりがあるわけですから、なんともいえませんが、ただ、親父を見ていて、やはり何度も言うように自分の身の丈のことを精一杯やるだけだと思っています。
似ているという意味では、僕は気がつかなかったんですが、バンカーショットをしたあとにバンカーレイキで砂をならしたあと、ヘッドについた砂をラフの芝で、サーッと(扇形のように)滑らせてふき取るんですよ。
親父がやっていて、綺麗にとれるのを見て真似たんですけど(笑い)、それを見ていた青木功さんが
「お前、バンカーが下手なところも似ているけど、それも親父そっくりだな」
って(笑い)言われました。
親父は、大きなカバンでコースに行くんです。中身は必要最小限なんですけど、それはズボンの横の折り目をできるだけつけたくないという考えだったようです。
湯原 タバコを吸って、灰皿に吸殻を入れるわけですけど、それすらきちんと揃っているんです。長さもタバコの折れ方も同じで、きちんと並べてあるんですね。そういう計る能力も凄いなって思っちゃったんです。
でも、中部さんから言われたことをやり続けるというのは、ほんとに難しいことだなと思う。僕がゴルフをやり始めて、いちばん吸収したいときにいてくれた人ですから、僕にしてみればヒーローなんです。そこで感じたことをそのままプレーに出すことは、非常に難しいことなんですね。
三田村 調子がいいときは、スコアがいい。でも悪いときにどこで歯止めをするかということを僕は聞いたことがあるんです。たとえば僕たちレベルでいえば、80台もでるけど100も出るじゃだめで、その100をどこまで底上げしていくかということが大切だと……。
湯原 中部さんだって、ミスをしましたよ、いっぱい。でもゴルフはミスのゲームだということを、しっかり理解できていたわけです。
こうして年齢を経てから、思うように行かない体力に対して、気力にたいして、どう処理していたんだろうと……その自分とのギャップと闘いながら……。
それを聞き忘れました。
ゴルファーって頭の中で自分がいいときというのを覚えているわけですよ。
でも、肉体的なギャップを必ずあるわけで、その処理ができていれば、年取ってもいいゴルフができるわけですよ。それを聞き忘れたことが残念です。中部さんだったら、正直に答えてくれたと思う。
中部さんは、努力を努力と思っていないから。
当たり前のことをやっていると思っているんですよ。
何かの障害をクリアすることを、当たり前のようにやっていた。
難しいショットを何事もないように、処理してしまう。
そのカッコよさは、学びたい。
構成・三田村昌鳳
月刊ゴルフダイジェスト 2003年12月